
あなたはハブとマングースというと、これらを戦わせるショーを思い浮かべるのではないでしょうか。
マングースはハブやコブラといったような、猛毒を持つ毒ヘビにも果敢に挑んでいくようなイメージがありますよね。
しかし実際のところでは、どうやらマングースがハブなどの毒ヘビと戦うということは無い、とも言われているのです。
果たしてこれはどういうことなのか。
そこで今回はハブとマングースの戦いのルーツを探り、その真相に迫ってみたいと思います。
目次
マングースってどんな動物?
マングースは、日本国内においては沖縄と奄美大島に生息が確認されています。
しかし実際にはインド周辺の南アジアの広い範囲にわたって生息している動物で、本来日本には生息していなかった動物なのです。
体長は50~60㎝くらいで、体重はメスでおよそ400~600g、オスで600~1000gほどの、イタチによく似た体つきをしています。
インドではコブラの天敵として良く知られていますよね。
雑食性で、ネズミなどの小動物、鳥、昆虫などいろいろな獲物を捕らえて食べます。
別にヘビが好物だから良く襲っている、というわけではないのですね。
2005年~現在は特定外来生物に指定されていて、駆除対象にもなっている動物でもあります。
ちなみにマングースの寿命はおよそ1年~2年、長いものでも3年~4年くらいだとされているようです。
マングースが日本に入ってきた経緯とは?
マングースは1910年にインドから沖縄本島に持ち込まれた外来生物です。
なぜマングースがわざわざ外国から連れてこられなければならなかったのでしょう。
実はその当時の沖縄の人々は、毒ヘビのハブに悩まされた生活をしていたことに由来します。
その頃はハブの毒に対する血清がなく、噛まれるといった被害が相次いでいる状況でした。
人間だけでなく、家畜に対する被害も相次いでいたということです。
そこで2000匹のイタチを野に放してハブ退治を行ったわけですが、結果はすべてのイタチが返り討ちにされてしまうという散々な結果になってしまいました。
毒ヘビのハブ
そこである動物学者の勧めにより、インドで捕獲したマングースを沖縄本島に連れ込み、放され、ハブ対策として用いられるようになったのです。
マングースにはヘビの毒に対する耐性があり、ハブ対策にはうってつけだと考えられていました。
1979年には沖縄本島から奄美大島へも持ち込まれ、放されました。マングースは対ハブ専用の「期待の星」とまで称賛され、期待されることになります。
しかしそこには動物学者であっても考えもしなかった、大きな落とし穴があったのです。
ハブとマングースが戦うようなことはあり得ない!?
落とし穴の一つ目は、そもそも「ハブとマングースが戦うような状況は、起こりにくい」というものでした。
どういうことなのかというと、ハブというヘビは夜行性で昼間に出歩くことはありません。
そしてマングースは昼行性の動物です。
ハブとは全く逆の生態をしていますので、夜行性のハブと出くわして戦うというような状況は、普通では考えられなかったのです。
マングースはハブを退治してはいなかった!
二つ目の大きな落とし穴は、「マングースはハブを退治してはいなかった」というものです。
ハブを退治するために連れてこられたマングースですが、肝心のハブを獲物として捕らえてなかったという結果が報告されたというのです。
ではマングースはいったい何を獲物にしていたのでしょうか。
実はマングースは毒蛇のハブを襲わず、代わりにその地に昔から生息していた、アマミノクロウサギやヤンバルクイナ、ケナガネズミなどの島固有の希少な在来種の動物が次々と獲物にされてしまい、在来種の数がどんどん減り、マングースが数を増やしてしまうといった生態系が破壊されてしまう結果を招いてしまったのです。
ではどうしてマングースはハブではなく、アマミノクロウサギやヤンバルクイナなどの在来種の動物を餌にしたのでしょうか。
答えは簡単ですね。「その方が安全で簡単だから」です。
これらの動物にはハブのような毒もなく、よちよちと無防備に歩いているだけで戦わなくても仕留めることができるわけですから、当然マングースにとってはハブと命がけで戦うよりもはるかに簡単なわけです。
それに元々ヘビを専門に捕食するという動物でもありませんし、前述の通り昼行性のマングースが夜行性のハブと鉢合わせする確率は極めて低いということからも、ハブ対策には向かないのも頷けますね。
マングースは駆除対象に
マングースによる生態系の破壊はとどまるところを知らず、数十匹しかいなかったマングースは遂に最大数の時期で3万匹にまで増え続けました。
そこで環境省は2000年にマングースを駆除する取り組みを開始します。
導入された当時「期待の星」とまで言われたマングースはついに、「有害な外来生物」にその立場は転落してしまいます。
人間の都合で勝手に連れてこられ、人間の勝手な都合で駆除対象にされるというマングースには何の罪もありませんよね。
そんなマングースを駆除するためだけに、マングース・バスターズと呼ばれるマングース捕獲駆除のための集団まで組織され、これまでに2万匹ものマングースが捕獲、駆除されてきたと言います。
しかし数を減らしたマングースのさらなる駆除に新たなる問題が課せられることになってしまうのです。
マングース駆除に莫大な費用が掛かる
マングースは数を減らし続け、駆除活動は順調に進んでいたものと考えられていました。
しかし数が減ってからの新たな問題も出てきました。それは数を減らしてから、罠にかかるマングースの数も減り、駆除しにくくなってしまった、というもの。
考えてみれば当然ですよね。数が多いうちは次から次へと簡単に捕獲できますが、数が減ってくれば罠を仕掛けても空振りに終わることも少なくありません。
つまり駆除活動に費用だけがかさむようになってきたのです。
ここで駆除を一時的にでも中断してしまうと、またマングースが増えてしまってこれまでの努力は水の泡となってしまいます。
ですのでそれからも駆除活動は続けられることになり、遂に沖縄本島の一部ではマングースの根絶に成功し、ヤンバルクイナなどの数も回復傾向に向かっていることが確認されました。
しかしこれまでのマングースの駆除にかかった費用はおよそ3億円にまでのぼりました。
これから先、島全体でマングースの根絶を果たすためにはこれまでと同じくらいの費用が掛かるともいわれているのです。
ハブを駆除する目的1つののため、たった1種類の外来生物の導入によって得られたものは何もなく、かえって日本固有の生態系が損なわれ、元に戻すために莫大な費用をかけてマングースを駆除するハメになってしまったわけです。
ハブとマングース、強いのはどっち?
沖縄と奄美大島に導入されて、駆除対象にされてしまった可哀そうなマングースですが、結局のところハブと戦ったらどっちが強いのでしょうか。
ハブもマングースも重量でいえばほぼ同じ大きさだと言えますね。
マングースにはヘビの毒に対する耐性が備わっているとはいえ、やはり限度というものがあります。
いくら噛まれても平気というわけではないはずです。
沖縄では良くハブとマングースを戦わせるショーが見せ物として有名ですが、それによると90%の確率でマングースが勝つと言われています。
しかしマングースが勝ったのちにヘビの毒が体に回ったマングースが死んでしまう、ということも実際にはあるそうです。
ショーが終わってすぐに幕が下ろされることがある、というのはこういうことがあるからでしょうか。
まとめ
人間の都合でハブと戦わされたり、駆除されたりといった運命を辿ってきたマングースを哀れに思えてなりません。
ニュージーランドでも似たような話があり、鳥の楽園に導入された哺乳類が生態系を破壊してしまうという話を聞いたことがあります。
人間が間接的にもたらした生態系破壊は世界各地でも起こっているようです。今後はこのような過ちを繰り返さないように注意していきたいものですね。